あのお店はなぜ時代を超えて愛されるの? お客さんがみんな笑顔で出てくるのはどうして? 赤星探偵団の片瀬那奈団長が、名店の暖簾をくぐり、左党たちを惹きつけてやまない「秘密」を探ります――。
■激戦区でキラリと光る一軒
どういう訳か、時折無性に食べたくなるのが、とんかつ。「よし、とんかつにしよう!」と、甘辛のソースをかけたとんかつをサクッと味わっているところを想像するや、早くも“とんかつの口”になってしまうことはないだろうか。
ある日、片瀬団長は、そんな“とんかつの口”に襲われた。かくして駆け込んだのが、とんかつ激戦区として知られる神田エリアの路地裏に佇む名店「ポンチ軒」だ。
初めて入る店だが、団長いわく、「外観からすでに美味しい味がしみ出ている」とのこと。団長のとんかつアンテナがビシビシ反応している。
団長がまず頼んだのは、もちろんサッポロラガービール「赤星」。まずは喉を潤し、今日の気分にピッタリのとんかつはどれか、メニューをじっくり吟味しようという作戦だ。
よく冷えた赤星を手酌でトクトクトク……。グラスの8割まで注いでから、一旦泡が落ち着くまで待ち、さらにいっぱいまで注ぐのが団長の流儀。
――いただきます!
片瀬: ふ~~おいしい! やっぱり明るいうちから飲むビールは最高だなあ。
さて、メニューのチェックを始めた団長だが、なにやら困った様子。すかさずお店の人に質問する。
片瀬: すみません。ロースのとんかつにしたいと思ってるんですけど、「厚切りロース」っていうのもあるんですね。これって、どれくらい厚いんでしょう? やっぱり厚いほうがおいしいんですか?
答えてくれたのは、店長の橋本正幸さん。
「当店のロースは通常のものがだいたい200グラムなのですが、それもかなり厚めのカットになっています。厚切りロースはだいたい350グラムで、厚みは倍くらいになります。
お肉はなるべく大きな塊でゆっくり調理したほうが肉汁が中に閉じ込められるのでおいしいんですよ」
「じゃ、それで!」と即答。ついでに、ごまきゅうりを頼んで、揚げ物への臨戦態勢を整えることにした。
■絶品アジフライに悶絶
ごまきゅうりは、きゅうりをごま油で味付けしたシンプルイズベストな一品。
片瀬: (ポリポリポリ……)はぁ、おいしい。ごまときゅうりでごまきゅうり。真っ直ぐなおいしさだなあ。よく見ると、きゅうりに飾り包丁が入れてあって、ごま油がよくからむように気配りされているの。こういう丁寧な仕事を見ると、ますます期待が高まっちゃう。
「これもはずせない」と頼んだアジフライがやってきた。デ、デカい!
ソースは自家製の甘口と辛口のほか、富士宮やきそばに使われることでも知られる「スーパー特選太陽ソース」というウスターソースが用意されていて、塩で食べたいという人にはフランス・ゲランド産の塩もある。
さらにアジフライにはタルタルソースとおろしポン酢も付くと、至れり尽くせり。
片瀬: 私はスーパー特選太陽ソースでいってみます。“特選”の上に“スーパー” を付けるネーミングセンスが素敵ですよね。
それにしても、見事なアジ。尾っぽを見ただけで新鮮さが伝わってくる。う、箸では重くて持ち上がらない。
(なんとかかぶりついて)うまっ! サックサクッ! 肉厚っ! 身がふっかふかっ! ジューシーっ! 強烈に、うまい!!
えーと、ココ、アジフライの店じゃないんですか? これがサブの扱いじゃかわいそうじゃありませんか。いやあ、いきなり人生最高のアジフライに出会ってしまいました。
そしてまた、キャベツがキレイな千切りでおいしそうですね。私、とんかつ屋さんのキャベツはソースで食べる派。これには甘口ソースをかけまして……はい、うまい! 食欲に火がついてしまいました。
次にやってきたのはメンチカツだ。こちらは豚と牛の合挽きを使っている。何もかけずにいってみましょうと、ガブリ。
片瀬: お肉が口の中でホロホロくずれていく。そして、この肉汁。うま味がいっぱい詰まっていて、やさし~いおいしさ。
(赤星を一口やって)うん、最高のコンビネーション!
■伝説的名店のとんかつをそのままに
いかにも老舗という佇まいのポンチ軒だが、実はオープンは2012年と意外に新しい店だ。前身は赤坂にあった洋食の名店「フリッツ」。揚げ物が絶品と評判の店で、とりわけとんかつが有名だった。移転を機に、とんかつと豚しゃぶの店として再開したのが、このポンチ軒なのだ。
アジフライとメンチカツに感動した団長は、「いったい何が違うんですか?」と素朴な疑問を投げかける。
「そうですね、いい素材を使うのはもちろんですが、やはり揚げ方でしょうね。肉の種類や厚み、衣のつけ方などによって揚げ方には微妙な加減が必要です。
うちのとんかつはサラダ油とごま油のブレンドで、7割程度まで火が入るように揚げて、あとは休ませて余熱でさらに火が入るのを待ちます。
揚げる時間と休ませる時間が半々くらい。ですから厚切りの場合は、お出しするまで30分近くかかります。手間はかかりますが、これがジューシーさのポイントかもしれません。
アジフライはラード100%の高温の油でさっと揚げます。魚のフライにはラードのほうが相性がよくて、コクも出ますし、油切れもいいんです。そういう油の種類と温度のチョイスも重要ですね」(橋本さん)
そしてついに、ウワサの厚切りロースの登場だ。その名の通り、というか想像以上に分厚い。4cmくらいはありそうだ。
片瀬: うぉーー! これはアガりますね。うまいこと言ったわけではありませんよ(笑)
さて、とんかつを食べる時は、とんかつ問題と向き合わなければいけません。こちらは全部で6切れにカットされていますね。左から1番~6番まで番号を付けるとします。これをどういう順番で食べるかを自分の気持ちとしっかり重ね合わせて決めることが大切なんです。特にロースの場合は、端っこに脂身があったり、衣が大きめについていたりするじゃないですか。
……今回は、3番、1番、2番、5番、6番、4番の順でいきます! 要は最初と最後に一番いい中心部を食べたいの。おいしいものから食べてトーンが下がっていっちゃうのってイヤ。最初だけ盛り上がる恋愛みたいなもので(笑)。あぁ、おいしかったなあと終われる感動のフィナーレが大事。
■「とんかつ問題」の先にある口福
とんかつは断然ソース派だが、ソース7、塩1、ポン酢などその他2の割合で味変しながら食べるという団長。自分なりに食べ方をあれこれ考えながら楽しめるのも、とんかつのいいところだ。
片瀬: (3番とんかつを持ち上げて)断面がうっすらピンクのキレイな色。こんなとんかつは初体験だなあ。どれどれ……
(閉じていた目をかっと見開いて)うまっ!! すごくさっぱりしているのに、脂が甘くて肉のおいしさが広がっていくの。こんなにぶ厚いのに、歯がスーッと入っていい食感。そしてサーッと消えていく。「とんかつは飲み物です」って感じ。
とっても上品。上品だけどしっかり者。成城学園で育ちましたって感じかしら。小さい頃からいい教育を受けてきたのが現れている感じ。ホント、いい子だなあ。
使っているのは成城学園ではなく、沖縄育ちの黒豚だ。放牧してゆったりとストレスのない環境で育てると、不思議と肉質がきめ細かくなり、脂も甘くなるという。
片瀬: あ、沖縄でしたか(笑)。そう言われてみれば、なんくるないさーっていう自然体の味がします。いやー、このおいしさ、衝撃的だなあ。
ところで、こちらで赤星を置いているのはどうしてですか?
「ドライ系生のビールが全盛の中で、熱処理をする昔ながらの製法で味わいをしっかり出しているビールとして赤星は特別な存在です。これが揚げ物によく合うんです。とんかつやアジフライのおいしさを引き立ててくれますし、逆に揚げ物によってビール自体の味わいも深まります。
開店当初は、この界隈で赤星を置いているのはうちくらいでしたが、今では随分増えましたね」(橋本さん)
片瀬: 厚切りロースの強烈なおいしさを知って、がぜん気になり出したのが、特ヒレ丸ごと一本揚げです。500グラムを丸ごと揚げるんですね。おいしいに違いない。次回は絶対、友達と来て、丸ごと一本&赤星を楽しませていただきます。
――ごちそうさまでした!
撮影:峯 竜也
構成:渡辺 高
ヘアメイク:青山理恵
スタイリスト:大沼こずえ
衣装協力/MSGM
TEL:03-3239-0341