酒のつまみは数あれど、とりわけポテトサラダをこよなく愛すマッキー牧元氏。「ポテサラ学会」の会長でもある氏が、ポテサラが旨いと評判の店に足を運び、その美味しさとビールとの相性を語る――。
■ビールの美味しさは香りにある
「これまでに積み重ねてきた歴史、愛され続けている理由。美味しい料理も重要だけど、でも本当に大切なのはそう言った店の持つ雰囲気や居心地だと思うなあ」
マッキー氏に好きな居酒屋、足繁く通う居酒屋はどんな店ですか? と聞くとそんな答えが返ってきた。話題の新店舗にも行くけれど、ふらりとほろ酔いたいときは上記のような店に行くのだという。なるほど。さらにこう続けた。
「お酒の揃えとかもね、極端に言えばそこまでこだわらない。その店おすすめのものを飲ませてもらえばいいと思うし」
しかし、ビールは別だとのこと。
「ビールはね、好きな銘柄がないと頼まない。他のお酒をお願いするようにしてるんだ」
その好きな銘柄のひとつで、あると間違いなく注文するビールが『赤星』だ。
「ずっとビールは味わいだと思っていたんだけど、美味しさの基本は香りだと教わったんです。言われてみれば、穏やかな香りのビールのほうが食事により合うような気がして。そう柔らかい苦みも含め、そういう意味で『赤星』が好きなんだよね」
■その手があったか! アイデアと味に唸る逸品
さて、ポテサラだ。こちらは新店も老舗も、居酒屋もビストロも、新作もクラシックも関係なく、あれば必ず頼む。何より大好きだから。そして「店主の個性がわかる料理だとも思う」からだ。
「ジャガイモはみんなが好きな食材。マヨネーズだって嫌いな人は少ないでしょ。その2つをメインで使うポテサラは失敗がほとんど無いでしょ。なので、マヨネーズを自家製にしたり、他の具材をどうこだわるかで他店と差別化しやすいでしょ。とはいえ、昔はキュウリ、玉ネギ、人参、ハムかベーコン。たまにリンゴが入っていたりするくらいで、あまり個性的なものがなかった。ここ10年近くじゃないかな、ポテサラが急激に多様化してきたのは」
今回のお店『花とら』のポテサラも誕生したのは11~12年前だという。「期間限定で作ってみたんだけど、毎日出る大人気商品になっちゃって。じゃあ定番にしようってなったんです」と、店主の高橋氏は語る。
具材はキュウリ、玉ネギ、人参、ベーコン、ゆで卵といたってオーソドックスだ。しかし、ベースとなるポテトにジャガイモとサツマイモを使用するという部分で個性を発揮している。
「ジャガイモだけじゃつまらないなと。そこで少し甘みを加えてみたらいいんじゃないかとサツマイモを入れてみたんです。あと食感に面白みがあった方がいいなと、すりつぶしたものと角切りを使い、個人的にしっとりしているタイプが好きなので生クリームと牛乳を少量入れて仕上げています」
きっかけは単純だが、名作は得てしてそんなところから生まれるものだ。ともかく、このサツマイモがいいのだ。
「たぶん、2種のイモを使ったポテサラはこちらが初めて作ったんじゃないかな。最初に出合った時、こういう手があったかと驚いちゃったよね。食べれば、そのほのかな甘みが目からウロコの美味しさだし。おまけに穏やかな香りの『赤星』とことのほか相性もいい。とにかくいろんな意味で衝撃的だったね」とマッキー氏もにっこり。
というわけで恒例のアレです。
「2面性のあるお父さん……普段はごく一般的なんだけど、お母さんとふたりきりになると、すごく奥さんに甘えるお父さん。その甘える姿は決して子供たちには見せないというね。そんなお父さんが主役のポテサラ。うん、これ以外にないでしょ(笑)」
ところで、店主の高橋さんは大のタイガースファン。ポテサラを食べながら『赤星』をグビリと飲み「旨い!」と堪能しつつ、さらに今年の秋に向けての夢を語り合うのも一興です。
これも『赤星』に合います!
「取材を受けるとみんなポテサラばっかり(笑)。でも『花とら』の主役はこだわりの海鮮なんです。ぜひ、こちらも食べてみてください」と高橋さん。
自身が築地に足を運んで仕入れる魚介を刺身で、焼いて、煮てと様々な美味しさで楽しませてくれる。
「刺身4点盛り」(2106円)は仕入れ次第で内容が変わるが、取材日は本マグロ、石垣ダイ、スミイカ、紫ウニの4点。ビールに負けない味がのったものが揃う。
「花とらまんじゅう」(864円)は、ダシで炊き、すりつぶした里芋でエビを包み込んで挙げたまんじゅうに、きのこたっぷりの餡がトロリの手のかかった一品。ハフハフしながら頬張れば、まんじゅうの香ばしさとビールの苦みがぴったりなのが実によく分かる。
構成:武内慎司
撮影:西﨑進也