酒のつまみは数あれど、とりわけポテトサラダをこよなく愛すマッキー牧元氏。「ポテサラ学会」の会長でもある氏が、ポテサラが旨いと評判の店に足を運び、その美味しさとビールとの相性を語る――。
■シンプルイズベスト!上品な味に唸る
赤星の魅力、ポテサラの魅力、そしてそのふたつが奏でる美味しさのハーモニーについて考えてきたこの『ポテサラ酒場』は今回で6回目。
厚切りベーコンや明太子の燻製、パクチーを加えたり、さらにはフライドポテトを使ったりと、こだわりのポテサラを紹介してきた。
毎回「どんなポテサラが出てくるのか!? どんな味わいで『赤星』との相性を楽しませてくれるのか!?」と期待しているマッキー氏に、いわゆる定番のポテサラは用意できない。なのだが……マッキー氏の目の前に置かれたのは、滑らか目に潰したポテトに玉ねぎ、きゅうり、人参、そしてロースハムという極々普通の佇まいのポテサラである。
まずは「赤星」で喉を潤すと、「ふむ」と頷き、いつものようにゆっくりとその普通の佇まいをしたポテサラを箸ですくう。すくうのはひと口ぶんだ。それも「イモばかりでもいけないし、具材が多すぎてもいけない。バランスよくが大切なんだよ」とのこと。
さてポテサラを口に含んだ瞬間、「いいねえ」と顔がほころぶではないか。
「ポテトにマヨネーズ、ハム、玉ねぎ、きゅうり、人参。具材は本当にオーソドックスなんだけど、酸味とまろやかさがほどよく上品な味わい……このマヨネーズは自家製だな。ハムもほどよく燻製されて、いいアクセントになっている。これは箸休めにもぴったりで、美味しいねぇ。その姿が普通な分、驚きも大きいよ」
ここ『ホルモン焼 婁熊東京』は豚の内臓を食べさせる焼き肉店。毎朝芝浦に足を運ぶ店主・熊井 良氏の仕入れる内臓は味わいが濃く、脂ののりも十分。「それらの間にこのポテサラを食べることで、酸味で口の中がリセットされて、また肉を食べようっていう気分にさせてくれるよね」
熊井氏曰く「ジャガイモをはじめとする野菜は旬のもので、ハムも自家製で冷燻したもの。酸味を利かせたマヨネーズもこのポテサラのためだけに作っています。いろんなポテサラを作っているうち、素材に力があれば余計なスパイスなどは足す必要がないと思ったんです」。
オーソドックスにこだわった逸品だったのだ。
「そのこだわりには、ビールもこだわりで応えないとね」
マッキー氏は空になったグラスを斜めに傾けるとゆっくりと赤星を注ぎ始めた。半分くらい注ぐと今度はグラスを縦に戻し、今度はビールをやや高めのところか細く注ぎ始める。
「最初にビールを注いだ後、高いところから注いで泡を作る。そうすることでビールのコクがよく分かる一杯になるんだよ」
コクのある赤星とこだわりのポテサラは、さらにマッチ。マッキー氏の目がいっそう細くなる。
すると、おもむろに「この香り豊かなイモは父親で、マヨネーズはお母さん。そこにハム、玉ねぎ、きゅうり、人参と言う子どもたちがいて、まさに一家団欒なポテサラなんだけど……」と、ポテサラを家族に例え始めた。こちらから聞く前に答え始めるだなんて、まさに美味しさのなせる技。
「この両親は上流階級のふたりで、家族みんなも品のある面々ばかり。でもね、燻製にした自家製ハムが曲者なの。そんな家庭に育ちながらちょっと悪い感じになって……ラッパーになって里帰りした。そういう家庭なんだよ(笑)」
お見事!
■イモの香りを楽しむのが美味しい食べ方
ごく普通の佇まいであろうとも、変わった具材を使っていようとも、ポテサラとの対峙……つまり美味しい食べ方は同じである。
「ポテトサラダはあくまでもイモ料理。まずはイモの香りを楽しんでほしい。だからこそ、ポテトが多くてもいけない。具材が多くてもいけない。バランスよい量を口に運ぶのが大事なんだよ。最後は、おかずとしても魅力的なんだけどお酒との相性も抜群。『赤星』をはじめいろんなお酒との相性も楽しんでほしい。あと、もちろんお替わりは自由。心ゆくまで楽しみましょう!」
マッキー氏流のこの心構えさえあれば、どんなポテサラと出会おうともいつも美味しく、楽しく、ポテサラの個性を見抜きながらいただけるというわけだ。
■コレも「赤星」に合います!
豚の内臓を中心に楽しませてくれる『ホルモン焼 婁熊東京』。同店で「赤星」を楽しむならまずは看板料理である、鮮度抜群の内臓を使った「9種の盛り合わせ」(2人前・3000円)だ。
かしら、網レバ(レバーを背脂で巻いたもの)、サガリなどその日オススメの内臓を、それぞれの味を生かした味付けにして提供。香ばしく炭火であぶり口に含めば、独特の香り、濃厚なコクと旨みがブワッと広がるのだ。
「苦味がほどよく、香りも穏やかな『赤星』に合わないわけがありません」(熊井氏)。
ところで店名に使われている“婁”には「たたらぼし」や「寛ぐ」という意味があり、また女という字が入っていることから女性にも豚モツを楽しんでほしいという願いが込められているそうだ。そこで味わいはもちろんのこと、見た目にも美しい料理も用意。
グリーンのソースがかかる身厚のガツのしゃぶしゃぶ「ガツの椒麻(ジョーマー)ソース」1200円もそんな料理のひとつ。ネギ、山椒、生姜を使った香り豊かなソースがガツの甘みを引き立てる。
構成:武内慎司
撮影:西﨑進也