酒のつまみは数あれど、とりわけポテトサラダをこよなく愛すマッキー牧元氏。「ポテサラ学会」の会長でもある氏が、ポテサラが旨いと評判の店に足を運び、その美味しさとビールとの相性を語る――。
■ポテサラ界にカルボナーラが登場!?
「ポテサラの上手な撮影方法を教えてください」。
どんな料理も食前にパシャリと撮影。家に帰ると、その写真を独自のデータベースに保存しているというマッキー氏に、ポテサラの出来上がりを待つ間にそんな質問をしてみた。料理だけで数千、ポテサラに限っても何百も撮影してきた氏に構図の撮り方など伺えば、インスタなどで評判になる写真がきっと撮れるはず。
「大切なのはジャガイモの質感を出すこと。ところがよく練ったポテサラは白い上に表面がつるりとしているので、質感が出しづらい上に、ピントも合わせづらくて、実は撮影が難しいんだよね。そこでいかに陰影をつけて質感を出すか、それに限るんじゃないかな」。なるほど!
そんな会話をしていると待望のポテサラが登場。それを見た瞬間、マッキー氏の目が輝く。
「だから、今回のような表面に凹凸のあるポテサラは撮るのが簡単で楽しいんだよ!」
早速カメラを向け、シャッターを押すマッキー氏。しかしその目の輝きは、ポテサラを口にした瞬間になくなってしまう。いや、正確には、笑みで表情が崩れ、目が細くなってしまったというわけだが。そして「これは面白い!」が、氏がポテサラを口にした直後の最初の言葉だ。
こちら『夕』のポテサラは、これまでの滑らか系とは打って変わって、揚げたて熱々のフライドポテトを使用しているのだ。それを厚切りのベーコン、オニオンスライス、マヨネーズ、米酢、マスタード、パルミジャーノ、粗挽き黒胡椒と和えて完成というタイプ。
「レシピを聞くとジャーマンポテトっぽいけど、口にするとチーズの塩気、マヨネーズの酸味、マスタードの辛味がバランスよく混ざり合い、香ばしいフライドポテトにぴったり。この味は例えて言うなら“ポテサラ界のカルボナーラ”だね。
それにマヨネーズだけだと子供っぽい味になるけど、マスタードや酢が加わることで大人の味に仕上がっているのがいい。名物になっているのがよくわかります」
写真撮影によし、食べてよしのこのポテサラは、店長の五十畑豪太氏曰く「農家の方との会話から生まれたもの」なのだそう。
「農家の方に聞いたんです。ジャガイモの一番美味しい食べ方は?って。そしたらホクホクしていて香ばしい『フライドポテト!』だと教わって。そこからレシピを考えて、出来上がったものなんです」
ちなみに使用するポテトは、「山梨の契約農家から届く産直のものが中心で銘柄はその時々で違いますが、馬鈴薯やキタアカリなど、その時に状態が一番いいのものを使用しています」とのこと。
■スズのタンブラーで飲む『赤星』もまた旨し
ほうほう。店長の話に笑顔でうなづきながらも、食べる手が止まらないマッキー氏。
「ベーコンの塩味がジャガイモを呼び、ポテトを食べるとベーコンが欲しくなって。これは箸が止まらないよ」
瞬く間に半分を食べ終えると、『赤星』をゴクリ。
「そして『赤星』の苦味。これが口の中をすっきりさせてくれて、またポテサラが食べたくなる。
ところで、このタンブラーはスズだけど、スズは温度変化が緩やかなのでビールの冷たさが保たれやすい。それともうひとつメリットがあって、スズで飲むとビールの角が取れて柔らかな味になるんだよ」。
確かに薄はりグラスとスズのタンブラーで飲み比べると、『赤星』の苦味がまろやかなになったのが感じられる。不思議だ。
「どうしてそうなのか、その理由はわからないけど、器で味を変えて楽しむのも面白いよね」
そう言うと、再びポテサラを堪能し始めるマッキー氏。そして、器をキレイに空にすると、
「いやあ、本当に面白く美味しいポテサラでした。それにさ、メニュー名が『じゃがいもと炒めベーコンのあったかいポテトサラダ』でしょ。これだけだと、まさかフライドポテトのポテサラが出てくるとは思わないもんね。その驚きもいいよ」と、ご満悦。
では最後に、今回もこのポテサラを家族に例えてもらいましょう。
「今回はね、じゃがいもとベーコンががっぷり四つに組んで、どちらが主役とは言えないんだよなぁ……そうだなあ、長男が六本木のクラブでドイツ人と意気投合。このままウチに来て、一緒に飲もうぜと。その家飲みに長男家族も参加して、日本の味はこうだ、ドイツの味はこうだなんて、楽しく国際交流が図られている。そんなイメージかな(笑)」
ちなみに「でも、ドイツには“ポテトサラダ”と言う名前の料理はないんだけどね」。。
■コレも『赤星』に合います!
日本酒と国産ワインを豊富に揃える『夕』が瓶ビールに『赤星』(中・750円)を置いているのは「何より美味しいから。そして苦味とキレのバランスが良く、料理に合わせやすいのが理由です」。
そんな『赤星』をこちらで楽しむなら、先の来る客のほとんどが頼むという「じゃがいもと炒めベーコンのあったかいポテトサラダ」900円のほかに、「アオリイカと新キャベツの“クリームコロッケ”」4個・1400円や、牛すじと人参や大根といった旬の根菜類を塩味の鰹出汁で煮た「国産牛スジと根菜の“塩煮込み”」1000円がオススメ。
前者はズワイガニやキノコなど、内容がその時々の旬材に変わるが、香ばしく揚げられたコロッケと冷えたビールの相性はやはり抜群。口に残る揚げ油やクリーム感をさっぱりさせてくれるので、飽きることがない。4個あるが、すぐさまペロリだ。
後者も牛スジの脂の甘みやコク、プルンとしたゼラチン質、根菜の匂い、ホクホク感……料理の様々な要素が『赤星』の苦味、香りに実によく合う。
冬ならではの、温×冷の絶妙なる組み合わせを楽しむために、ぜひとも出かけてみてほしい。
構成:武内慎司
撮影:西﨑進也