酒のつまみは数あれど、とりわけポテトサラダをこよなく愛すマッキー牧元氏。「ポテサラ学会」の会長でもある氏が、ポテサラが旨いと評判の店に足を運び、その美味しさとビールとの相性を語る――。
■ 香りの「後追い攻撃」に箸が止まらない
ずっと好きだった。子供の頃から洋食屋に行くと必ず頼み、ジャガイモとマヨネーズという最強コンビの美味しさに魅了されていた。
その気持ちが“愛”だと自覚するのは、もう少し後。20代後半になって居酒屋巡りを始めた頃になってからだった。
「イモの香りはちゃんとするか? マヨネーズとのバランスは? お店ごとの味の違いや具材へのこだわり……いつしかそういうことも考えながら食べるようになったんだよね(笑)」
以来、軽く1000を超える店のポテサラを愛でてきたマッキー氏。今回は昨年末に根津駅近くにオープンした気鋭の居酒屋『根津 たけもと』にやって来た。
旬の魚介や野菜をふんだんに使った和食をはじめ、和牛やラムを使った肉料理も提供する。もちろん、ポテサラも常備しているこちらで、果たしてその愛は、どこまで膨らむのだろうか?
「その時々の旬の素材を使ったポテサラを出すようにしています」と、店主の竹本氏がいうように、ポテサラのレシピは固定されていない。例えば燻製玉子をふんだんに使ってみたり、有馬山椒を利かせて香りを楽しませてみたり。約10種あるバリエーションのいずれかがメニューに載る。
この日、竹本氏がサッポロ「赤星」に合わせるならと用意したのは、パクチーを混ぜ込んだ、その名もずばり「パクチーのポテトサラダ」。
「うん、シンプルでいいね」
まずはその容姿を目を細めて眺めるマッキー氏。箸の先端をポテサラが崩れぬようにゆっくりと差し込み、ひと口分を持ち上げると、待ちきれぬようにひょいと口の中へ。
「お、ほぅ、ほぅ」と何かを感じながら笑顔で咀嚼するマッキー氏。そして、おもむろにこうつぶやく。
「何がいいって、まずパクチーと、おお、これはナンプラーだね! ジャガイモの香りがしっかりとありながら、そのあとでパクチーとナンプラーの香りがほのかに後追いしてくる。いや、これはなかなか……」
口に含むと、まずはジャガイモの香りが口中にブワッと広がり、噛むうちにパクチーやナンプラーの香りがフワッと鼻を抜けるのだという。
「口の中で味わいが変化するから、ついつい箸が進んじゃうんだよ。しかも赤星を合わせると苦味と香りが見事に調和するという、こちらも飽きさせない組み合わせ。これはいいねぇ」
竹本氏にタネを聞いてみた。
「パクチーの香りを殺さないようにマヨネーズは少なめ。とはいえパクチーが強くなりすぎると和食っぽさがなくなるので、ゆで卵を多めに加えて穏やかにしています」
「ナンプラーは本当に隠し味程度。ビール、日本酒、ワイン、何にでも合うよう少しだけ加えています。いやあ、味の仕掛けが全部バレちゃいましたね(笑)」
愛の力、恐るべし。
さて、恒例の親族会議である。このパクチーはポテサラの中でどんな位置付けなのだろうか?
「そうだねえ……パクチーとナンプラーによるオリエンタルな装い……日本人だけどタイ人の雰囲気……」
しばし考えて、
「長女の姉だね。彼女は旦那の仕事の関係でタイに長く行っていた。その姉が久しぶりに実家に戻ってきた、と。そんな感じだと思わない?」
今回も、参りました!
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食中酒として抜群の日本酒、ワインを揃える『たけもと』が、ビールに赤星を選んだ理由はふたつある。
「親父が家で飲んでいたビールが『赤星』だったので、ビールといえばコレというイメージが強くありました。実際、大人になって飲んでみるとコクと苦味がしっかりしていて、これは旨いなと。それに火入れしているのでホップの香りが穏やかで、料理の邪魔をしないんですよ」
そんな「赤星」に合わせて欲しいのが、まずは「おからのたいたん」。
竹輪などの具が入りやや濃いめに味付けされたおからと、「赤星」の苦味がことのほか合う。店で食べてはいるのだけれど、気分はどこかお茶の間。そんな気分にさせてくれるのも楽しい。
次におすすめしたいのが「ラム肉のガリネギ焼き」。甘みのあるラム肉のグリルの上に、芽ネギと刻んだガリを乗せた一品。ガリの甘酸っぱさとラムの味わいが絶妙にマッチ。さらにガリが加わることでラムのジューシーさが柔らかな美味しさだ。
「焼肉を食べる時に、塩を振った肉の上に紅ショウガを載せるとさっぱり食べられて美味しいんですよ。その延長という感じです」(竹本氏)。
日々の延長とはいえ、このアイデアはさすが。驚きと笑顔が待つふたつのペアリング、ぜひとも試してほしい美味しさである。
構成:武内慎司
撮影:西﨑進也