グレイフランネルのスリーピースをデニムで着崩してみる。シャツは洗いざらしのボタンダウンで襟のボタンと第一ボタンを外し、緩めに黒のニットタイを絞めればスーツとは一味違うスタイルになる。
そんなジャケットスタイルで向かったのは神田の「藤田酒店」。東京のど真ん中で昭和な角打ちが楽しめるのだ。角打ちとは酒屋での立飲みのこと。乾きものや簡単な調理されたつまみが楽しめる大人の駄菓子屋みたいなワンダーランドとも言える。
ここが東京とは思えない昭和な店内の雰囲気がたまらない。
酒屋なのであらゆる酒が飲める。おつまみは50円から値段別に表記されているのも嬉しい。簡単に調理できるメニューも充実している。
ここのシステムは全てキャッシュオンデリバリーだ。一人に一個渡されるプリンのカップ容器にお金を入れて商品をレジで購入する。俺のスタイルは最初に2,000円入れる。子供の頃に駄菓子屋にお小遣いの500円を握りしめ通った感覚に近い。
角打ちはあまり長居して飲むべきではないと思っているのでこれくらいの予算が丁度いいのだ。
自分で店の冷蔵庫から「赤星」をとる。これが角打ちの楽しい瞬間だ。
「赤星」の大瓶は450円。プリンの容器からお会計して残りは1,550円。
美味すぎる。昭和な角打ちには、やはり「赤星」がよく似合う。
まずは駄菓子屋感覚で乾きもののつまみを選ぶ。
俺が選んだのは、なとりのみそかつ。こんなチープなものがいい。150円なので残りは1,400円。
目の前のつまみも気になる。炙って日本酒も悪くない。
しかし角打ちの定番つまみは、何と言っても缶詰だ。見ているだけでも楽しい。
数ある中で俺のおすすめは、これだ。元祖ちょうしたのさんまの蒲焼。パッケージのデザインもイカしている。あたためてくれるサービス付きというのも嬉しい。
美しすぎる佇まい。300円なので残りは1,100円。
楽しいなあ~角打ちでの缶詰立飲み。
美味すぎる。マジで美味すぎる。甘めの絶妙なタレがしみ込んだこの味は缶詰でなければ味わえない。やはりこいつがキングオブ缶詰だ。
ご主人の坪田さんおすすめのクリームチーズ酒盗のせ。乾きものや缶詰以外のメニューも楽しめるのもここの魅力。300円なので残り800円。ほろ酔いのせいか、なんかイスカンダルまであと何日みたいなヤマト気分になってきた。
小腹が空いてきたので、はんぺんチーズ。シンプルでありながら妙に美味い。400円なので残りは400円。
ご主人の坪田さんとの会話が心に沁みる。笑顔で話す角打ちをはじめるまでの苦労話を聞き泣きそう。
なんとここで挨拶周りに来られたサッポロビール営業担当の遠藤さんが登場。快くご主人と3人、「赤星」で乾杯させていただいた。やはり営業は日々の人と人とのつながりが大切だなあ~と心から思う。
俺は常連が集まる店先のカウンター席で角打ちを楽しんだが、奥には改装した広いスペースもあるので3~4人の仲間内でも十分楽しめる。
80年以上続く老舗酒屋を3代目の坪田さん夫婦が2010年に角打ちスタイルとしてリニューアルした。全てを改装せず昭和の雰囲気を残すために補強しながら今を保っているのだ。
BGMはオリジナルのMDで80年代のヒット曲が流れている。隣の大学院生やダンディなオヤジさん、サラリーマン、明日栃木に帰る建築関係のお兄さん。みんな年齢、職業に関係なく、まるで家族のように幸せな酒を飲んでいる。
坪田さん夫婦の人柄と気づかいに癒されているのだ。
「藤田酒店」はなにか小さな事でも人や家族を喜ばせたい気持ちにさせる。このまま飲み続けたいが、俺は残った400円で子供達のお菓子でもお土産に買って帰ることにした。
グレイフランネルのスリーピース。スーツ以外にもジャケットとベストだけでドレスダウンに着まわせる。ユナイテッドアローズ/ザ ソブリンハウスのオリジナルで数年愛用しているが古さを全く感じさせない逸品。
Text:Eiji Katano
Photo:Kou Maizawa