暖かくなると毎年必ず羽織る愛すべきジャンパーがある。それは、あえて昭和なジャンパーと呼びたい名品、バラクータのG9だ。スティーブ・マックイーンをはじめ、高倉健、松田優作が着こなしている映画を見て、憧れ続けたこいつ。英国製のヴィンテージもので、ネイビーの他、数色愛用している。G9の襟を立て、俺のホームとも言える武蔵小山へ向かった。
ガキの頃から、よく通っていた商店街は健在だが、再開発により昭和な路地裏は消滅してしまった。
このエリアにはタワーマンションが建設されている。古き良き街が生まれ変わるのも時代なのだろう。
ここ「武蔵小山飲食店街りゅえる」には、かつて多くの酒場が連なっていた。ちょうどこの場所にあったムサコの名酒場「長平」は、いつも満席で結局一度も入ることができず、再開発により幕を閉じてしまった。しかし数ヶ月後に「長平」は移転復活したと酒場で知り合ったムサコ大先輩から聞き、新店舗まで散歩することに。
ムサコで呑む前に、立ち寄りたいのが銭湯の「清水湯」だ。
至福の一杯の前に、露天風呂とサウナで、ととのえる。
最高すぎたサウナ&水風呂の3セット。風呂上がりでもG9の襟を立て、裏地のチェックをちょい見せすることを忘れてはいけない。
足元は素足にビンテージのホワイトバックスで、駅の反対側に移転した「長平」を目指す。
旧店舗から、進化した店内が広すぎてびっくり。15:00の営業
まあ平日だしと、隣のカウンター席に目をやると、もしや? この背中と横顔は、俺がリスペクトするムサコ大先輩ではないか?しかしムサコで偶然会うのはこれで何度目だろうか。
軽く挨拶を済ませ、まずは至福の一杯を注ぐ。
たまらん。ああたまらん。馴染みのムサコで呑む格別の喉越しだ。
「長平」の名物は、何と言ってもこのバリエーションから三つチョイスできる、おつまみ3点盛りとお刺身の長平盛りだ。ちなみに他の料理も気絶級に全部ウマいらしい。
迷わず決めたと言いたいところだが、全部美味そうなので、悩みまくり決めた渾身の三品は砂肝味噌炒め、ポテトサラダ、牛タタキサラダだ。
強烈にウマい!どれもクオリティが高すぎる。これだけ種類があれば毎日通い酒できちゃうぞ。
ドーン!美しすぎる長平盛りを眺める。ここはムサコ漁港なのか?
SASHIMI気絶・・・・・・ムサコ昇天!マジでヤバい。信じられない鮮度の高さで銭湯上がりの俺は、まるで温泉ロケで地方の漁港にでも来ている気分。
かなりのボリュームなので、カウンターにいたムサコ大先輩も一緒に呑んでつまむことに。
乾杯!っていうか、俺と同じバラクータG9を着ていることが衝撃すぎるミラクル。ムサコ大先輩とは大衆酒場好きには有名な小西康隆さん。ここムサコで出会い、本物の酒場を教えていただいた大先輩なのだ。ちなみに「赤星を語る会」のメンバーでもある。
撮影を忘れ、いつものムサコモードで話が止まらない。会話の内容が濃すぎて記事にできないのが残念だが、本音酒場トークとはそんなものだろう。
小西さんと長い付き合いのオーナーのミツルさんこと川上充さんも加わりリアルなアニ散歩モードが楽しすぎる。
カウンター横のプチ外呑み気分が味わえる開放的な立ち飲みコーナーに移動。小西さんに注いでいただいた「赤星」が格別の味だったので、注ぎ愛でお返しさせていただく。
このまま一緒に呑み続けると、取材脱線はしご酒になりそうなので、テーブル席に戻ると、常連達に「あーちゃん」と呼ばれ愛されるアルバイトの女性が、今度は注いでくれた。
うわっ!小西さんよりこっちの方がいいかも。なんか優しい「赤星」に感じるのは気のせいか。
なんか心がほっこりしたところでラストは牛すじチャーハンで〆ることに。これ間違いなくヤバいやつでしょ。
牛すじ炸裂!チャー気絶!強烈にウマすぎるぞ。
ミツルさんは、今やムサコドリームと言われる晩杯屋がムサコにしかなかった2010年に、そこで店長をしていた。いつか自分の店が持ちたいと2014年に独立し「長平」を開店させた。再開発によりわずか3年半で旧店舗は閉店となったが、多くの常連達に応えるべく2017年に移転復活となったのだ。
自分の尊敬する大先輩が「赤星」を好きだったので開店以来ずっと扱っているとのこと。大切なのは常連さんを裏切っちゃいけないことだと。移転しても常連達に愛され続ける「長平」には、今宵も多くのムサコ呑兵衛が、はしご酒の最後にたどり着いていることだろう。
バラクータG9のビンテージ。英国製で日本ではスウィングトップと呼ばれる名品。多くのアパレルブランドのデザインソースとなっているオリジナルの老舗ブランドがこれ。やや明るめのネイビーは定番色のベージュとは別物なので、一枚は持っていただきたい永遠の定番。
Text:Eiji Katano
Photo:Shinpei Suzuki