大人になって似合うようになった気がするのが黒いポロシャツ。ラコステの黒をややタイトに着るのが、今夏の気分だ。足もとは、細身のウールパンツに黒のドレスシューズを素足で。そう、普通でいいのだ、普通で。
そんないつものスタイルで新宿のゴールデン街へ向かうことにした。
今でもそこには奇跡的に昭和が残っている。
戦後の闇市として発展し、青線の時代を経て、200軒以上の飲食店が長屋に密集している。
迷路に迷い込んだかのような異空間で「赤星」を探す。
確かこの通りだったような気がするぞ。以前に偶然見つけた赤い扉をフラッと入った記憶が蘇る。
これだ!この赤い扉!ネットであらゆる情報が入る時代に、ここは店の情報が少ないのだ。
ちなみに「かおりノ夢ハ夜ヒラク」は食べログにも掲載されていない。店は長屋の2階だ。
前回行った時は、かなり酔っていたが、よくこの怪しい階段を登っていたと改めてシラフで思う。
オブジェ化して階段にはみ出しているキープボトルがカオスだ。
いったいどこまで続くのだろう。「カンパイとサンキューは世界を救う」って、確かに納得してしまうのはゴールデン街の磁場なのか?
俺が会いたかった赤い女は、オーナーの柳かおりさん。かおりんと呼んでいる。なんと歌手としても活動していて赤をテーマにオリジナル曲でライブもしているのだ。ちなみにこちらから視聴購入できるので、ぜひ。
いつもは手酌だが、かおりんに注いでもらう「赤星」はゴールデン街でしか味わえない最高の贅沢。
店名で、察する通り、藤圭子へのリスペクト愛が溢れている店内。
かおりんは、昭和歌謡に興味を持ち、最終的には藤圭子の世界にどっぷりハマったのだ。赤が大好きということでビールは「赤星」しか置いていない。
「アニキの夢はいつ開く?」なんて思いながらキンキンに冷えた「赤星」をグイっと。
お通しは、かおりん手作りのおひたし。愛情がこもっていてグッとくる。BGMの昭和歌謡を聞きながら、食べるとこれまた格別の逸品だ。後から常連の方に聞いた話だが、このお通しはその日の気分で、ある時と無い時があるらしい。ゴールデン街はそれでいいのだ。
打倒喫茶店のナポリタンを注文。
かおりんがナポリタンを作る後ろ姿を眺めながら、昭和な時は流れていく。
まだかなあ~赤い女のナポリタン。もうゴールデン街というよりは家にいるような気分になってきた。
できた~カウンター越しに、もうすぐナポリタン!気分は完全に家飲みだ。
素晴らしい!素晴らしすぎる!これぞナポリタンの中のナポリタンではないか。シンプルな具で昭和喫茶に負けていない王道なルックス。
強烈に美味い!かおりん気絶……ゴールデン昇天!「赤星」だけでなく、かおりんの愛情にも酔ってしまう。
この店には、あるルールがる。新しいお客が来たら、全員で「カキーン」の掛け声で乾杯するのだ。気が付くと、はじめて会ったお客とも自然と会話がはじまる。
かおりんは、声が大きくいつも大声で明るく笑っている。女性1人で店をきりもりするにはいろんな苦労があるに違いない。
営業開始時間は公式には19時からとなっているが、明確に決まっていない。なんとなく21時くらいというだけで休みの時もある。
それでも多くの常連が通い続けている。店が閉まっていれば他の店で飲んで待つのがゴールデン街。
メディアに多く取り上げられている店が名店とは限らない。酒と料理はもちろんだが、やはり人なのだ。
今宵も、かおりんの「カキーン」はゴールデン街で男達を癒しているだろう。
ラコステのポロシャツ。1933年に誕生し全てのポロシャツの元となったオリジナル。このモデルL1212は、ラコステの中でも正に原点とも言える逸品。洗いこみ、着続けることで馴染む鹿の子の生地感と絶妙な色落ちは、他のブランドでは味わうことができない。
Text:Eiji Katano
Photo:Kou Maizawa