「春なのに~お別れですか~♪」。春は別れと出会いの季節。もうすぐ春ってことで、シャツの上にニットを着ることが多いのです。少し暖かいと感じれば、脱いでサラッと肩にかけちゃえばいい。実は便利なアイテムだ。
このシェトランドセーターはアンダーソン&コーのエヴェレストというモデル。500年以上前からスコットランドのシェトランド島で作られている名品だ。
全身ホワイトのブラウンスウェードブーツで向かったのは、思い出横丁。春の思い出を記憶に蘇らせてくれる新宿西口だ。
戦後の闇市が今も奇跡的に残る昭和遺産に約50件のお店が、所狭しと並んでいる。
一歩横丁に入れば昭和にワープだ。
気になるラーメン屋があるので覗いてみることに。
入り口にドアはなくカウンターだけで正に俺好みの佇まいだ。
こんなラーメン屋では長居せず、さくっと飲むのがアニスタイル。
背中に戦後の横丁を感じながら「赤星」を流し込む。昼ビーが美味すぎるぜ。
ラーメン屋だが、俺が気になったのは餃子と焼きそばだ。このチョイスは蕎麦屋のかつ丼とか中華屋のオムライスが妙に美味い理論と俺は呼んでいる。
鉄鍋で焼かれ、やや焦げ目のあるワイルドな顔つきも悪くない。
俺の勘は当たった。パリッとジューシーで妙に美味いこの感じ。ルービー&ギョーザのエンドレスループでアニキゼツを耐える。
なぜ焼きそばが気になったかというと、俺が座ったカウンター前の鉄板で、めちゃくちゃ美味そうにお母さんが焼いているからだ。
こりゃあ食べたくなるっしょ。もう口の中が焼きそばになってきた。気が付いたら「お母さん、焼きそばちょうだい」と叫ぶしかない。
「今もきれいだけど、若い時はさらに美人だったでしょ?」なんてトークしながら「赤星」を飲む昼下がり。
やや太麺でコシのある王道感がたまらない。テッペンに乗った紅ショウガがセクシーだ。
アニキゼツ……昇天!!強烈に美味すぎる。ルービーのつまみにもなるし、超アルデンテ麺が激ウマ。やっと会えたね、思い出横丁の焼きそば♡
観光に来ていたフランス人カップルに餃子と焼きそばのアニキセットをすすめたら、「セボン!!」と喜んでくれた。
この2人は、俺も大好きな中野ブロードウェイに行きたいとうことで話が盛り上がり、アニ散歩を「トレビアン」と褒めてくれたので、美味い時は「キゼツ!!」と教えておいた。
美味すぎる焼きそばを焼いてくれたのは芙美子さん。夫の次作さんと2人でこの店を切り盛りしている。
終戦後の昭和23年に焼野原だった新宿西口の闇市マーケットでご主人のお姉さんが「若月」を開店させた。店名は、そのお姉さんの名字だ。
お姉さんは、数年前に亡くなったが弟夫婦が引き継ぎ、何十年も通い続けている常連達を癒し続けている。昭和の歴史を感じながら飲む「赤星」は格別の味だ。
再開発が進む新宿で、ここだけは昭和な時が流れている。食料のない戦後に、上を向いて歩き続けた大先輩方を誇りに思う。
思い出横丁で俺は想った。どんなに今がツラくても、必死に頑張り乗り越えれば全てがいい思い出になると……。
アンダーソン&コーのエヴェレスト。島の純粋種シェトランドシープの限られたウールを使用し、ハンドフレームで編まれた軽い着心地はやみつきになる。色違いで何年も愛用しているマイ・スタンダード。
Text:Eiji Katano
Photo:Kou Maizawa