築地場内市場が豊洲に移転しても、築地の場外市場には今も昭和グルーブが残っている。そんな昭和遺産で「赤星」を飲むと、いつもよりさらに心まで酔えるもの。
まだここには隠れたDEEPスポットがあるはず。俺はそのかすかな昭和電波を逃さない。
迷路のような路地を抜け伝説の「喫茶マコ」を探す。今の俺には寿司ではない。本物の昭和喫茶で赤い星を飲みたいのだ。
赤い看板には、喫茶とお雑煮。この昭和への怪しい階段を迷わずに登っていく。
強烈なオーラを放つ赤い扉の前で、微かな気絶が俺を襲う。
慎重に行け。油断するな。赤い扉の向こう側はどうなっているのか?お気に入りの黒いコットンジャケットを着て、心を落ち着かせるつもりが逆気絶してしまった。ちなみにこのアナトミカのモールスキンジャケットは着込むほどにエイジングされる名品でもある。そんなことより今すぐ扉を開けるのだ。
そこは完全に時の止まったリアル昭和スポットだった。俺は昼間から赤い扉の向こうで赤い星をいただく。
寺尾聡のレコードを聞きながら、曇りガラスの向こうは築地の街だ。
さらに大滝詠一のカセットもある。まだカレンに恋していて夢で逢っているようだ。歌いたい気持ちを抑え、つまみをいくつか注文してみる。
築地場外佃煮セット!築地の老舗でもある諏訪商店、江戸一飯田のものだ。場外の名物でルービーが飲めるなんて嬉しすぎる。ここは昭和喫茶なのに、築地らしい極上つまみが充実しているのだ。
最&高すぎる、ぷはっ!
おっ!山田洋次先生も通っていたのか?「アニキもつらいよ」と俺の中のアニキがささやく。
菅商店の親鳥焼売!ルービーには、これっしょ!
強烈にウマすぎる。鳥の旨味が炸裂してアニ気絶。
磯辺焼きで一休みしよう。築地の海苔に極上の餅がバヤい。全てがウマすぎる。クオリティがパネえ。
「喫茶マコ」の名物、海鮮雑煮!築地仕入れの海鮮は北海道産のホタテとズワイガニ、静岡県の真鯛、三重県の蛤。お餅は築地大野屋の手作りで出汁は蕎麦屋の長生庵のものだ。全て築地の食材ということ。
美しい。この香りがたまらない。
ぷりっぷりな蛤で気絶の向こう側へ。
強烈にウマすぎて、マコ気絶・・・・雑煮昇天!贅沢な海鮮と上品な出汁が絶妙なハーモニーを奏で意識が遠のいていく。
出汁は築地の蕎麦屋、長生庵のものと聞いた。「喫茶マコ」はどんな関係なのか?創業1961年なのに、なんでオーナーは若い男性なのか?何か深い繋がりがあるに違いない。教えて欲しい!
とその前に、夜マコのご紹介。今は昼下がりだが、「喫茶マコ」は夜も営業している。ちなみにこんなムーディな照明だ。
築地の田所商店の明太子をつまみにマコナイトも悪くない。
謎ばかりのマコについてオーナーの吉田さん(右)に話を伺った。左はスタッフの中川さん。吉田さんは銀座でバーを経営していて昨年に事務所の物件探しで、57年の歴史に幕を閉じ閉店が決まった「喫茶マコ」を訪れ先代のママに出会った。
その時に同行していたのが地元の先輩でもある長生庵2代目の方。そして先輩の父親である長生庵1代目と先代のママが遠い昔に築地で深い縁があった事実を知る。すっかり先代のママの人柄と「喫茶マコ」の昭和感に惚れ込んでしまった上に、そんな奇跡を目の当たりにした吉田さんは決意したのだ。「喫茶マコ」をできるだけ内装はそのままで引き継ぎ、新生「喫茶マコ」としてリスタートさせようと。
旧「喫茶マコ」は先代ママの手作り雑煮が名物だった。しかし今は引退してしまったので味わうことはできない。吉田さんは古き良きものは残しつつ、築地の名品を増やし新たな海鮮雑煮へと進化させたのだ。
正にヘリテージとエボリューションを感じる素晴らしい挑戦ではないか。魂のこもったものは時代の流れを超えて必ず次の世代へと続いていくものなのだろう。
アナトミカのモールスキンジャケット。エレガントなフォルムのワークジャケットは独特なアームのカーブや、ウェストのシェイプがアナトミカらしい名作。今では貴重なフランス製のもの。
Text:Eiji Katano
Photo:Shimpei Suzuki